縄文の多様性を示唆してくれるヒスイ・・・上尾駮遺跡出土石笛neo「墨流し裏勝り」
縄文時代の石笛としてネット検索できるものは、ほとんどがヒスイ製大珠を石笛として誤認、もしくは独善的に断定した眉唾情報である。
考古学的に縄文時代の石笛として推定されている数少ない石笛の一つが、青森の上尾駮遺跡出土の石笛。
実測図に基づいてレプリカを多数作っているが、私好みに改良して製品化しているのが「上尾駮遺跡出土縄文石笛neo」である。
この連休中の仕事で縄文石笛neoを作ったのだけど、思いがけず面白い作品ができた。
表は渋く墨流しの景色・・・。
裏は淡いコバルト発色にガラスのように半透明の白乳色が嵌る派手な姿で、これぞ裏勝り。
所々に赤と鮮やかな黄緑の星が散らばるヒスイ製石笛である。
江戸の庶民は奢侈(しゃし)禁止令により、地味な着物しか着る事を許されなかったが、その事を逆手にとり羽織の裏地に趣向を凝らした「裏勝り」が流行した。
普段は観えない所に凝るという、江戸っ子好みの裏勝りの誕生である。
因みに、大相撲で番狂わせがの一番があると座布団が飛ぶが、かっては贔屓力士の勝利を祝った谷町衆(たにまちしゅう)がこぞって自分の羽織を土俵に投げ入れていたそう。
後から呼び出しさんが拾った羽織を相撲茶屋で一杯やっている旦那の所に持って行けばご祝儀と引き換えてくれるという粋な慣習だが、名前など書いてなくとも誰の羽織か解るほどに「裏勝り」に凝っていたらしい。
実際に本場所見学中に座布団投げの現場に居合わせたことがあるが、今時は面白がって投げているだけで、非常にみっともない風景だった。
座布団を投げた人がご祝儀でも持っていく料簡でもあれば、これはこれで面白いのだが。
さて、古今東西から宝石とされているのは、単結晶の鉱物で、ダイアモンドやサファイア、ルビーがそれである。
ところが縄文人が発見した糸魚川ヒスイは複数の鉱物が混じった岩石で、ここが非常に示唆的だと思う。
すなわち四季折々の気候と沿岸部から山岳部まで複雑な地形を持つ日本列島の風土が育んだ多様性である。
完成した「墨流し裏勝り」は、不純物が多いと一般的には製品化されることのない鬼っ子ヒスイ。
ガラスのような半透明の部分は沸石という不純物で、普通はカットされて捨てられてしまう部分。
不純物でも綺麗じゃないか!
でも私は美しいと思ったから石笛を作ったし、作って良かったと思う。
多様性こそ美しい。
それにヒスイのピュアな部分(ヒビなし・緑一色など)だけを切り売りする時代もそう長くは続かないと思うし、ヒスイ職人はこれまで顧みられなかったヒスイの美しさを見出して作品化していく努力は必要だろう、と思う。
投稿者プロフィール

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ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。
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