我いまだ木鶏たりえず・・・ドキュメントロウカンヒスイの勾玉つくり
同業者が秘蔵する一握りほどの不定形をしたロウカンヒスイの原石で勾玉つくりを託された。ロウカンヒスイは深緑色をした最高級のヒスイで、金をだしても買えるというものではないから私の世代の職人には垂涎の的。

ひと様から原石を託されたら重量と比重を測定した証拠写真を撮っておく(笑)
原石のいい部分を横取りする職人もいるとも聞くから信頼してもらっている訳で、同業者からロウカンを託されるのはたいへん名誉なこと。

よみとった節理の部分からつくったプレートは、全体の三分の一ほど。赤く墨出しした勾玉の上の部分で超小型の勾玉をつくった。
下手なカットをしてしまうと無駄な端材がでてしまうので、カットラインに確信がもてるまで観察を徹底するのはいつものことだが、ひと様の原石だから責任重大。ヒスイ加工の最初の工程の原石カットこそ、最も技量がためされるのではないだろうか。

完成した勾玉を写真撮影する際に14倍に拡大されるピント合わせをしていたら、石肌の内部にネフライト(軟玉ヒスイ)のような黒い粒々がみえたので、今一度比重測定

乾燥重量5・2g÷水に浮かべた重量1・57g=比重3・3なので硬玉ヒスイに間違いなく安心
石目の観察に丸一日かけて、慎重に墨出しとカットを繰り返して、縦24㎜の勾玉と11㎜の超小型勾玉が一個づつ完成。

普段よりズングリした勾玉になったのは、ロウカンの貴重さにビビッて慎重になり過ぎたためと思われ、残念ながら「勾玉の形をしたヒスイ」にとどまっている。

超小型の勾玉はオリジナル開発したシルバー製八の字環をセット。小さい勾玉をつくって「どうだ!まいったか!」とばかりに技術を誇る職人もいるけど、お客さんは市販のバチカンを自分で買って付けてちょうだいで終わるのは不親切というもの。それにバチカンだと挟んだA環部分が開いてしまったら勾玉を紛失する恐れもあるし、デザインがイマイチ。最初は丈夫なステンレスワイヤーで八の字環を作っていたが、高級感がでないから工夫に工夫を重ねて今の八の字環にたどりついた訳。

凛然とした存在感をもつ「ヒスイでつくった勾玉」にほど遠く、原石の価値を越えていないのは未熟な証しだ。修行が足りませんナ。
我いまだ木鶏たりえず!by戦前の大横綱の双葉山が、本場所69連勝で格下力士に敗れた時に恩師におくった電報文。
*蛇足ながら知らない人のために説明;勇む軍鶏はいまだ未熟で、本当に強い軍鶏は木像のように平常心を保っているという中国の故事
投稿者プロフィール

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ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。
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