特攻隊員だった水戸黄門俳優の眼光・・・俳優西村晃・裏千家大宗匠千玄室

黒澤映画の常連俳優、水戸黄門役でも知られる西村晃さんは、学徒動員で兵役につき、「海軍第14期飛行予備学生」を経て特攻部隊の「徳島白菊隊」に配属され、三度の出撃をするもエンジン不調で引き返して終戦をむかえた経歴をもつ。俗に「白菊隊」と呼ばれる特攻隊である。
西村さん演じた悪役や嫌味な軍人は、現代の俳優とは比較にならないリアリティがあったが、軍隊時代にモデルがいたのではないだろうか。
時に鋭く光る眼光も、修羅場をくぐり抜けた経験があったからかも知れない。
「徳島白菊隊」の同期で生き残ったのは、茶道の裏千家宗家の跡取りの千玄室さんだけで、千さんの眼光も鋭かった。
隊員たちに与えられた特攻機は「白菊」という練習機だが、500キロ爆弾で爆装すると離陸がやっとで時速200キロもでなかった。命じた側には「これでは逆にアメリカの駆逐艦に追いかけられるぞ」と、無責任にも笑い飛ばした幕僚もいた。
出撃命令を待つ間、千さんは飛行場の隅で野点して、仲間の隊員たちに茶をふるまった。
 
西村さんが「お袋にあいてぇなぁ・・・」と突然たちあがり、故郷の方角をむいて「おかあさ~ん!」と叫んだら、他の隊員たちも次々と「おかあさ~ん!」「おかあさ~ん!」と声を限りに叫んだと、千さんは回想する。
特攻を主導した軍人や命じた軍人たちが戦後になって、「自分は反対した」「特攻は志願であったが、夜も部屋に押しかけて特攻に出してくれと大変だった」と著作で書いているが、実際には高圧的な同調圧力で拒否できない状況だったし、否応なく命じられた特攻隊員も多かった。
 
整列する隊員たちには「特攻に志願するもの一歩前へっ!」と怒鳴られ、条件反射で前に出てしまい、「しまった!」と後悔した隊員もいたし、躊躇していると「行くのか行かんのか!」と畳みかけられ、前へ出ざるを得ない隊員もいた。
 
特攻が公然とおこなわれるようになったのはフィリピン戦からだが、航空参謀の源田実中佐が発令した「空地分離令」により、特攻部隊の「201航空隊」の基地に別の航空隊の戦闘機が給油のために着陸しただけで、「貴様らの小隊から特攻隊員を二名だせ!これから出撃する!」と突然に特攻を命じられた隊員もいた。
 
悪名高い「空地分離令」は、所属部隊とは関係なく着陸した基地航空隊の指揮下に入る命令だ。
大本営軍令部は「特攻は作戦に非ず、現地部隊の自発的な行動であった」と責任逃れの逃げ道をつくっていたが、その典型が「空地分離令」な訳だが、それら詭弁つくりの中心にいたのが源田実中佐ではないだろうか?
 
戦後の源田は空自の創設主要メンバーとして幕僚長に栄転した後に自民党国会議員になり、「東京大空襲」の指揮官だったカーチス・ルメイに空自創設に功績があったと叙勲させた、自民党国会議員のメンバーでもあった。
これが戦争映画では開明的で特攻に反対の立場をとる軍人として描かれる源田の実際。
 
ついでながら「201航空隊」の飛行長が源田の子分のような中島悟少佐で、パワハラとモラハラで悪名が高いのみならず、理不尽な指揮ばかりとっていたので「アメリカの利敵行為ばかりするスパイ」と隊員たちから不評だったが、この人も源田の声がけで空自の幕僚になっている。
そんなこともあり帝国海軍航空隊出身者は、前後に空自に誘われても断り、海自のパイロットになった人も多かったと聞く。
 
安部元首相おのブレーンだった保守論客が「彼らの青春を羨ましく思う」「高邁な精神」と特攻隊員を賛美しているが、まったくの歴史修正であり、多くの特攻隊員の本音は当たり前だが「死にたくない」だった。
 
ある白菊隊員は「生きて還れたらほんまもんのお茶室で飲ませてくれよ」と玄室さんに言い残して飛び立ち、二度と還らなかった。
 
戦後、進駐軍の将校たちが日本文化を学びたいと、京都にある千家に訪れるようになった。
 
玄室さんは、父親の大宗匠がアメリカ軍将校に対して、毅然とした態度で作法通りに正座させる姿を目の当たりにして、日本は負けたが文化は負けてないと、「茶の湯外交」に尽力するようになった。
 
戦争を知らない人が勇ましいことをいう。
戦争を知らない人が他国の戦争をSNSで消費する。
戦争経験者は黙して語らず、不穏な言動や空気を睨みつける。
戦争経験者は二度と同じ過ちがおきないように行動する。
世界的に極右が台頭する今、戦争経験者に学ぶのはとても重要。
 
 

投稿者プロフィール

縄文人見習い
縄文人見習い
ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。

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