戦争を見世物にする商業主義映画「永遠のゼロ」に物申す・・・角田和男著「修羅の翼」
百田尚樹著「永遠のゼロ」が、名高い零戦搭乗員の角田和男中尉の自著「修羅の翼」を参考にしていると知り、映画を視聴したら荒唐無稽でお涙頂戴な描写があざとく、特攻を商売ネタにしていることに怒りを覚えた。

往年の東映の戦争映画のように、豪華なキャストとセットで話題つくりをして、史実を切り張りしたお涙頂戴の村芝居のような内容。主役の岡田准一さんや元同僚の晩年を演じた田中泯さんはの存在感と演技はお見事ですけどネ。
冒頭場面で零戦が訓練で空母にヨタヨタと無様に着艦する際に、空母の乗員が指をさしてゲラゲラ笑っている時点でアウト。
着艦はベテランでも死亡事故をおこすことがあり、空母乗員も巻き添えで死ぬこともあるから、訓練であっても臨戦態勢で高見の見物などできようもない。
ましてや搭乗員には下士官や士官もいるから、指をさして笑うことは上官侮辱罪になる。
みんな命がけだったのに、指を差して笑う描写に神経を疑う。
あんなことはあり得ないのだ。
そもそも主人公はラバウル航空戦の小隊長のくせに「死ぬな」と部下に申し付け、1発も撃たずに逃げ回っているのだが、これは上官や同僚、徹夜で整備していた整備員を裏切る行為であり、疑いようもない利敵行為だ。
戦いたくないなら最初から拒否して内地か激戦地の陸戦隊に更迭されられればいい。
ただし「修羅の翼」には、厭戦ノイローゼになって引き籠った同僚に対し、角田中尉が「俺がついてるから死なせん!明日は俺から離れるな!」と諭し、翌朝に元気に出撃して戦死させてしまい嘆く記述はある。
そんな逸話を百田氏は、生還するために戦友を見捨てて逃げ回る唯我独尊の主人公に置き換えているのだが、常に倍する米軍機と渡り合い、死んでいった搭乗員たちに申し訳が立たないと思わないのか?
要するに「修羅の翼」を切り張りしただけの大衆ウケ狙いの酷い描写の数々は、そのまま日本保守党党首の百田氏の本質であるらしいが、その立ち位置は利権右翼ならぬ利権保守、あるいは商業主義のエセ保守、ポピュリズム作家であると断じる。

実際の角田中尉は謙虚で戦果を誇らない古武士のような実直な人柄であったらしいが、特攻開始から終戦まで直掩機(護衛戦闘機)として死線を生き抜き、戦後は開拓農民として苦労しながらも、元部下と共に私財をなげうって戦死した部下の遺族を探し出し、最後の様子を伝える活動をしていた。

晩年の角田和男さんは亡くなるまで慰霊祭に出続けていた。老いてなお鋭い眼光で「永遠のゼロ」を観たらなんて思うだろう。
遺族から有難がたがられていたのではない。
「息子が死んだのに、なんで上官のあんたが生き残ったのだ?!息子を返せ!」と怒鳴られ、ひたすら頭をさげて謝罪しつづけていたのだ。
小説や映画にすべきはこの逸話ではないか?
戦後に公職追放で開拓農民として苦労しながら、遺族をまわって謝罪し続ける生き残った元搭乗員と遺族の終わらない戦争を軸に、戦時中を回想する内容だ。
地味になるが、これこそが戦争のリアルであり、社会派映画監督の山本薩男や岡本喜八、新藤兼人ならこんな映画にするのではないだろうか。
壮年期の角田さんが、ある会合でアメリカ軍のエースパイロットと会った時、「エースパイロットだと!貴様、俺の仲間たちを何人殺した!」と詰め寄ったエピソードがあるが、角田さんは生涯にわたって帝国海軍航空隊の戦闘機乗りだった。
そんな角田さんが「永遠のゼロ」を観たら、「バカにするな!戦争を見世物にしやがって!立派に戦って戦死した仲間たちに謝れ!」と激怒しただろう。

将兵の戦記物はゴーストライターの記述が多いのだが、「修羅の翼」は著述に10年以上もかけたご本人の自著で、甲種予科練入隊、開戦、南方の激戦、特攻、慰安婦、終戦、戦後の苦労までの戦争のリアルが克明に書いてあり、歴史家も参考にする第一級資料となっている。
「永遠のゼロ」のようなヨタ話しで特攻をわかったつもりにならず、本書を読んでみてほしい。
投稿者プロフィール

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ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。
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