多様性が醸し出す風景を見出すヒスイ加工・・・ラベンダーヒスイ石笛
亡くなった水島新司氏の野球漫画の真骨頂は、主人公が一芸に秀でいても何かが欠落していて、その欠落を努力によって補う人物であって、天才的な万能選手ではなかったことではないか。
私は同業者が見向きもしない不純物混じりや色の薄い原石をみると、どうやったら魅力を引き出せるかと意欲が湧いてくるので、水島氏の世界観に似ているかも知れない。
均質さだけが価値ではないし、多様性が醸し出す風景もまた佳しとしましょうよ、という考えが私にはある。

例えば、部分的にスミレ色が発色した不純物だらけのラベンダーヒスイで作った石笛なら、他の職人はスミレ色の部分だけで勾玉を作り、それ以外は捨ててしまうかも知れない。

石目部分に螺旋紋を線刻して目立たなくしてみた。マグロの大トロ部分だけが旨いと、他の部分は捨てるるとヒスイがかわいそう。
私は捨てられてしまう部分にも魅力を感じるので、「ミルク色の雲海から蒼い夜空がのぞき見え、赤い星が浮かぶ」と、風景の面白味を見出す。

口の悪い同業者から「おまんは口が上手い」とからかわれるが、売らんがための宣伝文句ではない。どんな原石であってもチャームポイントはあるので、その魅力を率直に表現しているだけなのだ。このラベンダーヒスイなら透過性もチャームポイントだから、うんと薄く作って光が通りやすいように工夫。
私のようなヒスイ加工のスタイルは、「よいヒスイを安く欲しい」タイプのお客さんからは敬遠される、というより目に触れる機会さえないとは思う。

検索率の高い大手通販サイトが乱立する中から、スピリチュアル的な宣伝もパワーストーン扱いしない私のささやかな通販サイトを見つけ、「これ!」と買ってくれるお客さんの絶対数は少ないとも思うが、個展や講演に呼ばれたりもするし、遠くから訪ねてきてくれるお客さんも多い。
この4月で、ぬなかわヒスイ工房も開設10年目。借金もせず噓偽りのない仕事でも、なんとか食えているのが幸い。
投稿者プロフィール

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ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。
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