アナタハンの女王の正体は大女優だった!・・・吉村昭長編ドキュメンタリー小説「漂流」
吉村昭のドキュメンタリー小説「漂流」の冒頭に、戦後間もないころに騒然となった「アナタハン事件」が詳細に書かれていて、以前に観たアメリカ映画「アナタハン」を補完してくれた。

戦時中の海軍は漁船を徴用して、南方諸島の基地への補給や哨戒に従事させていたが、その多くが米軍に攻撃されて海没している。
アナタハン島に漂着して隠れ潜んでいた海没漁船の31人の軍属が、たったひとりいた女性を奪う殺し合いとなり、戦後に救出されてから世界的なセックススキャンダルとなったのが「アナタハン事件」で、円谷英二などの協力でハリウッドで映画化された。

主人公のモデルは毒婦、女王蜂と喧伝されたらしいが、映画では無名女優の根岸明美が天真爛漫でかわいい女性として好演している。

サービスショットも控えめ。この映画はスキャンダラスな内容ではなく人間のサガや人間ドラマも描かれている。
ずっとどこかで見た顔、聞覚えのある名前だとモヤモヤしていたのだが、「漂流」を読んだ機会にネット検索したら、黒澤明映画の常連女優だった。

名作「赤ひげ」の最初のエピソードで、10分弱の長ゼリフを鬼気迫る演技をして、一発で黒澤がOKをだした伝説の女優だったのだが、「アナタハン」とは別人のようだ。
この演技にかけた根岸の情熱が凄まじく、完成後の試写で嘔吐してしまい、不朽の名作を一度も観たことがないそうだ。
「漂流」でも吉村のインタビューに対し、当事者がモデルとなった女性の名前をちゃんづけにして「天真爛漫で気のいい女だった」と証言していて、「男をたぶらかす毒婦」の風評とは異なり、映画で描かれているように男たちの希望の星のような存在であったらしい。
「漂流」は水のない絶海の孤島に漂着した漁民が、12年かけて生還した長編ドキュメンタリー小説。
吉村昭作品らしく当事者になった気分でドキドキしながら、あっという間に読了。
ついでながらだが、わたしが「アナタハン事件」を知ったのは、小学生の時に読んだ手塚治虫の「太平洋Xポイント」で、無人島の名前がコナタハン島にしたのは、執筆時に「アナタハン事件」で騒然となったので、適当にもじったのだと後書きに書かれていたから。
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ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。
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