「赤ひげ」その3・・・サービスショット

「生きる」で長屋のおばちゃんの集団が、役所でヤイヤイと陳情する場面があるが、「赤ひげ」では、小石川養生所の賄い婦たちが、要所要所で狂言まわしをしている。

説明はないが、養生所で共同生活をしているので、身寄りのない寡婦の設定なのだろう。

女郎屋の主を演じた大女優の杉村春子がダイコンで叩かれる場面では、賄い婦を演じた女優たちが委縮してしまい、OKが出るまでに300本もつかってしまって、世田谷の八百屋からダイコンが売り切れたそう。

貧困にあえぐ人々と搾取する側の対決が、脇役女優と一枚看板の大女優の対比になっているところなど、黒澤さんの茶目っ気とサービス精神を感じて、拍手をおくりたくなる名場面だ。

画面手前に逃げてフェイドアウトしてゆく杉村春子を、中央の手に何も持っていない女優さんが両手の指を動かしながら、クチャクチャクチャ!と言いつつ追いかけて行き、杉本のヒ~!という悲鳴だけが聞こえるのだが、髷をクチャクチャクチャにされたらしいw

この場面を撮影していた時に三船敏郎は、「大女優の杉村春子がダイコン女優になった!」と大笑いしたそう。

そして最後に長崎帰りの若き医師の保本(加山雄三)の婚礼の場面で登場する、笠智衆と田中絹代が演じた夫妻は、黒澤さんの先輩監督の小津安二郎と溝口健二へのオマージュとされているが、映画ファンもニンマリする大サービス。

笠智衆にたった一言だけ「これでよい、これでよい、さぁ酒だ」と淡々と語らせた場面など、ヨカッタヨカッタと思えてくる。

上原謙の息子として映画界にはいり、若大将シリーズで人気者になった加山雄三は、俳優をつづけるかどうか悩んでいた時期で、本作で映画の素晴らしさを知って生涯の仕事にすることにしたそう。

余談だけど、黒澤監督は加山雄三を「生まれたて」とからかっていたそうだが、苦労知らずの若者という嫌味ではなく、育ちの良さもあって世俗臭のないピュアな男という意味であったようだ。黒澤監督の自伝「蝦蟇の油」にも「生まれたて」といった言葉が出てきて、自身と加山雄三に同じ匂いを感じていたのではないだろうか。

背景の庭には、軒先からおちる雪解けの水と咲き誇る梅が見え、まだ拙いウグイスの鳴き声も聴こえる・・・土埃が舞う空っ風の小石川養生所の門前からはじまる物語が、雪解けの早春の季節に養生所に残ることを決めた保本が、赤ひげから「お前はバカだ!」と言われ、「それでは養生所に残ることを許されたのですね?」と、嬉々として門にはいっていき大団円を迎えるのもいい。

この映画を最後に三船敏郎や志村喬の黒澤組の常連俳優を起用しなくなり、以降はカラー映画になるので、本作は壮大な卒業式を描いているんですな。

#クロサワ映画 #映画「赤ひげ」 #映画「赤ひげ」は壮大な卒業式

投稿者プロフィール

縄文人見習い
縄文人見習い
ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。

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