「赤ひげ」その4・・・クロサワ映画と音楽

「映画音楽は足し算ではなく、掛け算でなくてはならない」と口ぐせのように言い続けていた黒澤監督は、撮影所や自宅でも常に音楽を聴いて、時には音楽に合わせて映像を編集しなおしていたのだそう。

勇壮な「七人の侍」、能楽をとりいれた「蜘蛛巣城」、オリエンタルチックな「用心棒」の音楽など名曲が多いが、「赤ひげ」の音楽もすばらしい。

病に倒れた保本(加山雄三)を、おとよ(二木てるみ)が献身的に看病する場面で、窓枠に積もった雪を手にとって水桶にいれ、冷やした手拭いを保本の頭にのせる名場面では、佐藤勝が作曲した挿入音楽と動きが見事にシンクロして、ひんやり、ひそやかな空気感を際立たせている。痩せた背中と破れた着物がいじらしい。

子供のころに観たNHKの特別番組で、特別出演した黒澤監督が、この場面を回想して「あとで観たら動きと音楽がシンクロしていて驚いたんだよねぇ」と語っていたことを覚えている。

余談だが、本物の雪かと思いきや、お麩や発泡スチロールでつくった雪であるらしい。

しかし、その裏では、「蜘蛛巣城」から音楽を担当していた佐藤が、「影武者」の音楽を断り、黒澤と決別する発端となる事件があった。

当初の黒澤監督は、場面ごとに音楽家にレコードを聴かせ、イメージを伝えて作曲を一任していたが、磁気テープが登場してからは、自らイメージに合う楽曲でダビングしたデモ映像を見せて作曲させ、できあがった曲にも介入するようになり、作曲家と軋轢を生むようになっていった。

おとよが看病する場面に黒澤監督が選んだ楽曲は、ハイドンの交響曲九四番「驚愕」の第二楽章で、「こんなイメージで、もっと良い曲を」と無理難題を佐藤に注文した。

苦労して仕上げた曲を聴かせた黒澤監督から、「なんだハイドンそっくりじゃねぇか!」と言われ、佐藤は自尊心を傷つけられていたのだ。

ハイドンと聴き比べても佐藤の曲の方が断然といいと、わたしは思うのだけどネ。

イジメられて他人を信用しなくなったおとよに、拒絶されても辛抱つよく薬を飲ませる「赤ひげ」の名場面。三船敏郎の父親は新潟県人だったそうだが、この場面はわたしの母方の祖父に似ていて好きだねぇ・・・子どもの頃に三船敏郎が「飲んでますか!」と「リポビタンD」のテレビCMが流れるたびに、祖父は似てるとからかわれていた。

中学生の頃からだったか、映画が撮れずに経済的にも困窮しはじめていた黒澤監督は、サントリーウイスキーのCMにでるようになっていた。

「今日は一日中、海を見ていた」とかのナレーションのBGMが、佐藤勝が作曲した「赤ひげ」のテーマ曲に寄せたような、スローテンポで演奏されたハイドンの「驚愕」だったことを覚えている。

黒澤監督が亡くなった後に製作された「雨あがる」で、18年ぶりに作曲を依頼された佐藤勝は、「これでクロサワ学校を卒業できます」と喜んでいたそうだ。その後に亡くなっている。

相思相愛だったのに、妥協しない芸術家同志の軋轢の「雨あがる」は、「赤ひげ」のラストに流れる、保本の卒業を祝福かのような壮麗なテーマ曲のように、雪どけを感じるいい話し。

#「赤ひげ」 #クロサワ映画 #黒澤明 #クロサワ映画と音楽

投稿者プロフィール

縄文人見習い
縄文人見習い
ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。

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