戦う男たちの哀しみ・・・映画「眼下の敵」

実話ベースの戦争映画の名作は、日本に「太平洋の奇跡キスカ」あれば、アメリカには「眼下の敵」がある。

女っ気なしで、派手な戦闘場面もなく、水雷屋(魚雷や爆雷を主兵器にした小型艦艇)が活躍する、ハードボイルドタッチの海洋冒険活劇である点が共通している。

ただし「眼下の敵」の原作は、海洋冒険小説の本場のイギリス人の体験を元にした小説なので、こちらの方が娯楽色は強い。

大西洋を哨戒中のアメリカ海軍の護衛駆逐艦が、極秘任務をおびたドイツ海軍のUボートを発見して、知力と技量を尽くした頭脳戦となる。

実は、当初こそ、水上艦船に優位を誇っていたUボートでも、イギリス軍が優秀な対艦レーダーを実戦配備してからは、優位が逆転してした背景を知っておくと、本作の奥行きが理解できる。

本作では、アメリカの駆逐艦のレーダー画面が、自艦を中心とした同心円状の画面に浮かんだ敵艦の位置から未来位置を読み取り、正確なレーダー射撃をする一方で、Uボートはレーダー画面の横一線に表示されるオシログラフの波形から敵艦の未来位置を手計算で推定し、諸元調整した魚雷を発射している。

これはキスカ撤退作戦も同じで、最新技術とひと世代前の技術の戦いでもあり、戦後に海上自衛隊に入隊した元海軍士官が、アメリカから供与された駆逐艦のレーダーを観て「これじゃ勝てる訳ないよ」と嘆いている。

こういった電子兵装の性能差を冗長なセリフなしで、絵だけで表現しているところが、ハードボイルドタッチなのだ。

ハリウッド映画にありがちなヒーローや、悪役のドイツ軍人は出てこない。

職責を懸命に果たし、波の上と下で戦う男たちは、家に帰れば人の子、人の親、人の夫・・・それが何で殺し合うのか?

冗長なセリフ無しで、戦う男たちの苦悩を描き、国家の枠組みをこえた海の男がリスペクトしあう人間ドラマ。

駆逐艦長役にロバート・ミッチャムを起用したのは、ミッチャムの代名詞になった「スリーピング・アイ」が、物悲し気だからではないだろうか?左がミッチャム

潜水艦長役のドイツ人俳優のクルト・ユルゲンスも、聡明で信念が強そうでいて、どこか哀愁を感じる顔立ちをしている。

カタルシスある娯楽作品で終わらせず、戦う男たちの哀しみを内包させている見事さ。「君はまたロープを投げるだろう」も映画史上に残る名ゼリフで、これが本作の肝だ。

駆逐艦の副長は「原子力潜水艦シービュー号」の艦長役の俳優!

メインキャスト以外の駆逐艦の乗員はホンモノの海軍軍人!

ヘルメットを外してもリーゼントなミッチャム!

こんなお愉しみがある。

死闘の末に駆逐艦に魚雷を命中させて浮上したUボートは、騎士道精神を発揮して5分後に沈没させると退艦勧告・・・これ以上のネタばらしはしませんよ。

「太平洋の奇跡キスカ」を投稿した時は、熱烈なファンからネタばらし的なコメントを沢山いただいて、気持ちはわかるのたけど、未見の人のために結末がわかるコメントはしないでちょうだいw

リアルこの上ない本作だが、限界深度の海底に着底して隠れていた潜水艦の位置が駆逐艦に探知された時に、わざと大音量で行進曲のレコードをかけ、艦内は期せずして合唱となる。

味方の士気を鼓舞しつつ、敵駆逐艦に不屈の闘志をアピールする場面など、海洋冒険映画としても名場面。

かわぐちかいじの劇画「沈黙の艦隊」でパクってるし、20世紀フォックスの「眼下の敵」の数年後に公開された、ワーナー・ブラザースの「バルジ大作戦」でも、戦車兵が「パンツァー・リート」を合唱するけど、映画会社同士で話はついているのか気になるねw

戦争を知らない世代が映画をつくるようになった頃から、日本の戦争映画は、主人公の家族を出せば人物像が浮かびあがるといった描写や、漫画チックに眼を剥いて怒鳴る軍人、軍隊ではあり得ない上官の命令に逆らう下士官兵、史実を元にしたといいながら、内実は史実を切り張りして創作した荒唐無稽なストーリーが多くなっているように思う。

娯楽作品だから文句あっか!と炎上しそうだが、あまりにも荒唐無稽だと、実際に戦かい、死んでいった将兵への敬意が足りないのではないか?と、わたしは考えている。

江戸時代以前の歴史などに比べて、近代史を映画化するには、まだ生々し過ぎる部分が多いのだ。

「太平洋の奇跡キスカ」や「眼下の敵」のように、メロドラマや荒唐無稽な描写、冗長なセリフの説明なしで、戦争体験者たちが観ても納得でき、戦争を知らない世代の学びになる内容で、人間ドラマを描いた戦争映画があるではないですか。

「太平洋の奇跡キスカ」の試写会に招かれたキスカ戦友会は、上映後に拍手喝采をしたそう。その拍手喝采は、戦死した仲間への鎮魂の想いでもあったと思う。きっとそうだ。

「おおぜいの仲間たちが死んでいった零戦(ゼロ戦)を見世物みたいにしてほしくない」・・・撃墜王と呼ばれた元搭乗員が、戦後にこんなことを言っているので、折を見て紹介したい。

投稿者プロフィール

縄文人見習い
縄文人見習い
ヒスイの故郷、糸魚川市のヒスイ職人です。
縄文、ヒスイ、ヌナカワ姫の探偵ごっこをメインにした情報発信と、五千年前にヒスイが青森まで運ばれた「海のヒスイ・ロード」を検証実験する「日本海縄文カヌープロジェクト」や、市内ガイド、各種イベントの講師やコーディネーターをしています。

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